東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)289号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 取消事由の1について
成立に争いのない甲第三号証(引用例)によると、引用例の第1図及び第2図(本判決別紙図面(2)参照)に、被告主張のとおりの破線状の矢印が付されていること、第三頁左下欄第八行ないし第一三行に、「(1)は玄米供給用タンク、(2)は加湿装置、(3)(4)(5)(6)は各調湿用タンクであり、加湿装置(2)と調湿タンク(3)(4)(5)(6)との間には、加湿装置(2)より調湿タンク(3)(4)(5)(6)に行く昇降機(9)と、調湿タンク(3)(4)(5)(6)から加湿装置(2)に行く昇降機(8)とベルトコンベア(7)を設ける。」と記載されていることが認められる。
これらの記載によると、引用例記載の第1図における装置は、
「調湿タンク(3)、(4)、(5)、(6)の下端→ベルトコンベア(7)→昇降機(8)→(上昇)→加湿装置(2)(上部から下部へ)→昇降機(9)→(上昇)→調湿タンク(3)、(4)、(5)、(6)の上端」という米粒群(玄米)の循環路を形成したものであることを認めることができ、第2図に示される装置は、
「調湿タンク(3)の下端→加湿装置(2)(上部から下部へ)→ベルトコンベア(7)→昇降機(9)→(上昇)→調湿タンク(3)の上端」
という米粒群(玄米)の循環路を形成したものであることを認めることができる。
そして、審決が引用例記載の装置について認定するに際し、「調湿タンク下部から昇降機8、ベルトコンベア、昇降機9へ、昇降機8、ベルトコンベア、昇降機9から調湿タンク上部へ連絡する循環路が形成されているものと認められる。」としたのは、「調湿タンク下部から〔昇降機8、ベルトコンベア、昇降機9〕へ、〔昇降機8、ベルトコンベア、昇降機9〕から調湿タンク上部へ連絡する循環路が形成されている」ことを認めた趣旨であることは、審決の説示に照らして明らかであつて、右に判示したところに照らすと、審決のこの認定に誤りはないというべきである。
2 取消事由の2について
成立に争いのない甲第二号証(本件発明の出願公告公報)によると、同公報の第二欄第一六行ないし第三欄第一三行に、発明の詳細な説明として次の記載があることが認められる。
「ところで米粒には個有の吸水速度があり、これを上回る水分を添加した場合まず外部が吸水し、内部との間に大きな水分差が生じ、外部のみが膨張して亀裂が生じ所謂る胴割れを発生するものと考えられる。
そこで吸水速度に合致した無理の無い水分添加を行えば胴割れを生ずる事無く含水率を高められるとの推論に立ち、試験的に米粒にむらなく一定水量で連続して噴霧を行い、即ち、米粒間の接触位置を常に変えつつ連続して噴霧を行い、かつその水量を変える事により二時間から四時間にわたつて含水率を二%上げて、それぞれの所要時間に対する胴割れの発生率を測定したものを第1表に示す。
この実験によつて米粒においても、更には一粒毎の状態においても水分むらをなくし、均一に一八〇分で二%、つまり含水率が毎時〇・六七%以下の上昇率になる様な水量で噴霧を行つた場合に胴割れの発生率が極端に減少することがわかつた。
そこで大量の米粒群に、しかも全ての米粒毎にむらなく均一にかつ無理なく吸水せしめる為に発明された本装置の特徴とするところは、タンクに揚穀装置を付設して、タンクの下部から揚穀装置へ、揚穀装置からタンクの上部へと流れる米粒群の循環路を形成し、かつこの循環路に米粒に直接水を噴霧する水分添加装置を、米粒の含水率の増加を毎時〇・六七%以下となるようにして設けたことにある。
そして目的とするところは、これにより米粒のもつ個有の吸水性・膨張率等の諸点を勘案してその限度内において水分を添加するようにし、もつて米粒が胴割れを生ぜず、しかも米温を異常に上げることなく簡単に含水率を上げることのできるようにした米粒水分添加装置を提供しようとするにある。」
この記載によると、本件発明で、「米粒の含水率の増加が毎時〇・六七%以下となるような水分添加装置」と規定したのは、米粒群の加湿に当たつて、米粒の外部が膨張して亀裂が生じるという胴割れの発生率を減少させることを主な技術的課題としたためであるということができる。
他方、前掲甲第三号証によると、引用例には、水分添加装置における米粒(玄米)の加湿割合を、一時間当たり〇・五%から三・〇%とした加湿試験例が、第三頁右上欄の第3表に具体的に記載されていることが認められる。
そして、右甲第三号証によると、引用例の第二頁左上欄第七行ないし右上欄第四行に、「精白米については、部分的に水滴が付着したりすると、米粒の表面にひび割れが発生しやすいため、ゆつくり加湿しなければならないが、玄米の状態で加湿すれば、部分的に水滴が付着しても、その部分だけ極端に吸湿するということが防止され、したがつて、ひび割れが生じない」旨記載されていることが認められる。この記載によると、引用例に記載の右加湿試験例は、ひび割れを生じさせないことを前提として行つた、玄米に対する加湿試験結果を示すものということができる。
ここでひび割れと胴割れとは同じことを意味するから、引用例の右記載は、本件発明の技術的課題を示唆するものというべきであつて、本件発明が要件とする「毎時〇・六七%以下」に属する、一時間当たり〇・五%の加湿割合について開示している引用例記載の技術は、この加湿割合に関しては本件発明と異なるものではないというべきである。また、この加湿割合の構成に基づいて奏される、胴割れが生じないという作用効果が、本件発明と引用例記載の装置とで異なるものでないことも、引用例の前記記載が本件発明の技術的課題を示唆するものであることからして、当然のことである。
原告らは、本件発明は「直接水を噴霧する」水分添加装置を要件とするのに対し、引用例には、「加湿を行う湿風を用いた」水分添加装置が記載されているという相違があり、この点からしても、本件発明と引用例記載の装置では、技術的課題を異にするものというべきであると主張する。しかしながら、さきに認定した、本件発明の出願公告公報中の第二欄第一六行ないし第三欄第一三行の記載の中には、「本装置の特徴とするところは、(中略)米粒に直接水を噴霧する水分添加装置を(中略)設けたことにある。」との記載があるものの、これは発明の詳細な説明の欄におけるものにすぎず、前記当事者間に争いのない本件発明の要旨においては、水分添加装置の加湿手段について原告ら主張のような限定はなされていないことが明らかである。したがつて、原告らの右主張は理由がないというべきである。
3 以上みたところによると、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がないことに帰する。
三 よつて、審決の取消しを求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
タンクに揚穀装置を付設して、タンクの下部から揚穀装置へ、揚穀装置からタンクの上部へと流れる米粒群の循環路を形成し、かつその循環路に米粒の含水率の増加が毎時〇・六七%以下となるようにした水分添加装置を設けたことを特徴とする、米粒水分添加装置